私の読書日記43

2018年3月13日 火曜日

騙し絵の牙

塩田武士

20180314 塩田氏の作品は私は初めてですが、前作「罪の声」で2016年週刊文春ミステリー1位、2017年本屋大賞3位などを受賞し、近年人気が出てきており注目の作家です。
 本を手に取り、まず驚きます。表紙カバーと各章の始めのページに俳優の大泉洋の写真。新刊本ですし映像化の企画もまだないはずですが、この装丁。これは作者が映像化を前提として(あるいは映像化できないとしても)、大泉洋が主人公として活躍する姿を想定してストーリーを作ったようです(これを業界ではアテ書きというそうです)。

 (あらすじ)
 
主人公速水輝也は大手出版社薫風社の敏腕編集者。本来は小説の編集が好きで長らく小説雑誌の編集に携わったが、今はカルチャー誌「トリニティ」の編集長を務める。その雑誌にも連載小説の枠を1つ設けるなど小説に対する愛は変わらない。また、小説誌時代に関わった多くの作家たちからの信頼が厚く、人脈の広さは社内随一。
 一方、出版業界全体では紙媒体メディアの衰退や若者の活字離れが進み、薫風社でも売上の減少に歯止めがかからない。とりわけ10誌以上あった雑誌は不振が顕著で、廃刊が続いている。「トリニティ」も例外ではなく、年間で黒字が達成できなければ廃刊すると、会社幹部からは厳命されている。

 雑誌の収益は雑誌そのものの売上の他、広告収入や雑誌連載ものの単行本化など派生する商品の売上の3つから成り立っている。速水は3つのそれぞれについて売上を伸ばすため奔走する。大物作家の連載、映像化、企業とのタイアップ等々。そんななかでもこれまで関わってきた作家たち、特に若い作家を育てることも忘れないようにしていた。
 しかし、社内の政争に翻弄される上、家庭内にも問題を抱え忙殺される中、悲しい事件が起こってしまう。

(感 想)
 
主人公速水を大泉洋であると想像しながら読むので、一つひとつのシーンが脳内でリアルに再生されます。なかでも、速水のトークが軽妙でコミカル。ピンチには秘蔵の一発芸。ここぞと言う時に出る秒殺のモノマネ芸。社内会議では緊張したムードを和ませる笑顔とユーモア。時折飛び出す中学生のようないたずら。このようにトリッキーで変幻自在なキャラクターを演じることができるのは大泉洋しかいないでしょう。
 そんな風に楽しく読み進むうちに、少しずつタイトルが気になり始めます。騙し絵とは?とは?それらしきストーリーはどこにも出てきません。誰が騙すのか?誰が牙を剥くのか?

 仕事ができて部下思いの理想の上司。それが社内の政争に巻き込まれ敗北・・・のはずですが、最後は驚きの展開となります。
 数年前の「半沢直樹」のように、1年後には速水輝也ブームが起きているかも知れません。

(M.T@総務部)