私の読書日記(15)

2013年12月4日 水曜日

天佑なり(上)(下)
                      「高橋是清・百年前の日本国債」                幸田真音

  「日本国債」や「代行返上」など、金融・財政ものの小説が得意な作家、幸田真音(こうだまいん)の最新作。2.26事件で殺された高橋是清(当時蔵相)を主人公にしています。高橋は金融財政に詳しく国際通で、日本で初めて外国で日本国債を売った人でもあります。

(あらすじ)

b 高橋の生れは嘉永7年(1854年)。幕府の御用絵師の家柄であったが父が女中に産ませた子であったため、生後間もなく足軽の高橋家に養子に出される。優秀であったのか横浜の医師の下で英語を学び、13歳の時アメリカへ留学することとなる。 
 しかし、アメリカ行の船の船長に騙され有り金を全て奪われ、到着したサンフランシスコでは、奴隷として売り飛ばされ、強制労働を強いられる。様々な抵抗を試み、在留の日本人と出会い彼らの協力で何とかその家を脱出して日本に帰国する。
 人生とは不思議なもので、この時のアメリカでの苦労や経験がその後の高橋の経歴の中で役に立つのである。

 帰国後は英語教師をしたり役人になったりするのだが、芸者遊びや酒に夢中になる時期もあったりして、何度も職を失う。役人時代には日本には概念がなかった特許制度を整えるため、洋行し外国の制度を見て回り、初代特許庁長官にもなる。
 a1889年、35歳の時先輩に誘われペルーにおける銅の鉱山開発に乗り出し、職を辞し自らペルーへ渡り開発の現地での責任者となるが、これが廃坑とわかり事業は失敗、全財産を失う。

 帰国後、浪人生活をしていたが、日本銀行から誘われ一般行員からスタート。その後支店長などを歴任後、1904年50歳の時日露戦争が勃発する。戦争する資金が全く不足していた日本は資金の調達を国外に求め、外国で日本国債を発行する必要に迫られた。国債発行の事務や国債の買い手を見つける交渉事は、外国での経験が豊富な高橋を置いてほかにない。

 高橋は全権を持って交渉にあたるが、明治30年代の日本は世界では無名の後進国。そのような国がロシアと戦って勝つとは誰も思わないし、債券を買おうというリスクを取る投資家もいない。しかし、売れなければ資金調達ができず、戦争は負けてしまう。この難題にこれまでの人脈を生かしながら、独りで立ち向かう。そんな中、ただ一人、高橋の活動や戦争の行方を観察していたドイツ人がいて、高橋に声をかける。初めて日本の国債を買おうという人物が現れたのだ。これがタイトルにもなった「天佑なり」。天の助け、天の声と思えたほど嬉しかったのだ。
 これがきっかけとなり、国債の発行は順調に進み、その後何度も発行することになる。

その後高橋は、日本銀行の総裁や大蔵大臣、総理大臣も務めるが、政界引退後も何度も請われ大蔵大臣は何と7回も就任している。
 何事も遠慮をせず直言する性格で、軍部の肥大化、軍事費の膨張にストップをかけることができるのは高橋だけになってしまう。そのことが結局凶弾に倒れる原因になるのだが、高橋の死後、日本の軍国主義化は一気に進むのである。

(感想)

 高橋是清の数奇な人生が、ジェットコースターのように昇降し、少年時代の出来事から面白く冒頭から引き込まれます。人物伝として大変痛快ですし、明治大正の歴史を財政の視点から見ることができ、勉強にもなります。
 高橋は外国人の知己が多く、彼らとの信頼関係が交渉のベースになっていました。その経験から、外国とは対等な信頼関係を重視すべきことを訴え続けましたが、残念ながらそのような主張は受け入れられませんでした。今の時代にも通ずる話ではないでしょうか 本

(M.T@総務部)